自著を語る(一部以上改)

ランニングの世界22(創文企画)

「自著を語る『明日の学び舎』(リーブル出版:2017年)二見隆亮著」(一部以上改)


1.はじめに(なぜこの著作を書いたか)
 2008年に知人の紹介で『陸上競技チャンピオンへの道』(ベースボールマガジン社1963)に出逢いました。かつて世界的な指導者として活躍したパーシー・セラティによるオーストラリアでの陸上指導実践がまとめられているものです。トレーニング等の手法についてよりも「考え方」、チャンピオンになるための「生き方」が細やかに描かれているもので、私は大きな感銘を受けました。
 この経験から「自分の力を発揮し続けることのできる人材の育成がしたい」という強い思いが植え付けられ、何らかのかたちで教育界に生かすことができないだろうかと考えるようになりました。その後、写経のようにその本のまる写しを試みたり、原著『How to become a champion』(1960)を取り寄せて翻訳を試みたりしました。その直後、セラティから「依存心を棄てろ。マネをしろなんていった覚えはない。自分で考えろ。自分の体に聞け。甘ったれるな!」そう言われたような気がしました。私の行為はただのコピーに過ぎなかったのです。そこでセラティの残した思想を現代教育に生かすための手段の1つとして小学生向けの物語『明日の学び舎』の執筆に至ったのです。


2.展開

 物語の内容は、1年間、小学5・6年生が陸上競技と国語、算数、理科、社会…といった他の教科とのつながりの中で「走ること」を学び続けるというものです。
 1学期(立志編)は子どもたちが先生の話に苦しみます。それまで考えたこともなかった「走ること」と「学ぶこと」と「生きること」のつながりを理解することは難しかったからです。国語は言葉について、算数は数字について、理科は仕組について、社会は事実について、走ることとは関係ないと思いながらも、学んでいきます。8月には学校に通わずに自分で学んでいる小中学生との触れ合いの中で考えます。
 2学期(志込編)はひたすら走る期間です。少しずつ物事をつなげて考えるコツをつかんできたのか、子どもたち自らが動くようになっていきます。10月には盲学校の児童たちと一緒に走る機会もあり、徐々に脳が活発に動き出していきます。12月には研修旅行で児童たちはオーストラリアへ行きます。そこで彼らは規定通りのスケジュールに嫌気がさし、駅伝マラソンを企画します。校長先生たちも参加して、ますますみんなで走る楽しさに味をしめていきました。
 3学期(実走編)になると、先生を待つことなく自分たちで動くようになっていきます。何かと何かをつなげることは、あることを他のことに生かすことであると気づく子どもが増え、先生には冷めた態度を示すようにもなります。個が際立つにつれて、人間関係も多少ぎくしゃくしますが、それでも「自分のことは自分で」といった意識が強くなってきます。各行事を通じて、あらゆるつながりを再確認しながら、卒業式で幕を閉じます。

3.この本が今日のランニング教育に与える影響と期待する成果
 
 予めつくられた世界で、予めつくられた教材だけに縛られる。守られた世界で、危ないことが許されない。いわれたことに従えばほめられ、そうでなければ怒られる。果たしてそれで教育が成り立つだろうか。セラティの教えから抱かされた私の問題意識はそこでした。
小学校現場で、学年が上がるにつれ、学ぶことも走ることも嫌いになっていく多くの子どもたちを目の当たりにし、教育の失敗を肌で感じざるを得ない日々が続いています。学ぶ価値や走る価値に気づけなければ、大人になっても働く価値、そもそもの生きる価値にも気づけないのではないかという懸念が起こりました。みんながやるからやるという「学び方」、「走り方」、「生き方」を選ぶ習慣が身につけば、一生を通じて自分を最大限に生かしきることなどできないように思えたのです。それもありセラティがスケジュールを否定することや自然を重んじる考えも『明日の学び舎』に反映しています。
 副題は『The Road to an athlete』としており、本の中では小学校を卒業するまでにアスリート(明日立人)になることを目指しています。アスリートとは「明日に向かって立ち向かい続けるために今日を全力で生ききる人」と定義しています。各教科で学んだことの価値を自らが走るというリアリティの伴う世界の中で確かめていくことができれば、学びや走りを関連性、連続性の中で生きることに生かすことができるのではないかと考えました。初めに挙げた私自身のコピー行為からの反省を踏まえても、見聞のレベルではなく、実践によって目的・目標を達成するために、多くの方に物語の中の手法ではなく「考えること」を教育現場に取り入れて頂きたいと思います。もちろんそこでも制度や方針に縛られない先生方の強いエネルギーが必要です。
学びながら走り、走りながら学び、全てを生かし続けていくことが、この物語の理念です。


自著を語る(一部以上改)



2019年10月10日 Posted by走る先生 at 08:41 │Comments(0)

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
自著を語る(一部以上改)
    コメント(0)